「酢だけになっても、これだけは残したかった。」——石川工業が守り抜く、家族の味と発酵の技術

「酢だけになっても、これだけは残したかった。」——石川工業が守り抜く、家族の味と発酵の技術

宮崎市佐土原町にある石川工業は、創業から100年近く続く老舗の食酢製造所。かつては味噌や醤油、炭酸水なども手がけていましたが、時代とともに事業は変化し、今では「酢」ひとつに絞って製造を続けています。

伝統の製法と、家族で守るものづくり。代々受け継がれてきた味の背景には、現社長の静かな覚悟と手間を惜しまぬ仕事ぶりがあります。

  1. ゆっくり3ヶ月かけて発酵させる、昔ながらの酢
  2. 味噌も醤油もやめて、残ったのは酢だけだった
  3. コロナ禍、父の急逝——孤独な中での継承
  4. 「うちの酢は、本当においしいから」——照れながらも語る誇り

ゆっくり3ヶ月かけて発酵させる、昔ながらの酢

石川工業の酢は、熟成させた酒かすを原料に、じっくり3ヶ月かけて発酵させて作られます。酢は“発酵が命”とされる繊細な食品。毎日タンクの温度を何度も確認し、金膜の状態に目を凝らす日々が続きます。急いで作れるものではないからこそ、作り手の“待つ力”と“見守るやさしさ”が、味を左右するのです。

 

味噌も醤油もやめて、残ったのは酢だけだった

創業当初は、味噌や醤油、炭酸水まで製造していた石川工業。しかし、時代の流れとともに徐々に事業は縮小し、残ったのは「酢」だけ。それでも、この酢だけは絶やさず守り抜かれてきました。時代が変わっても、家族とともに“酢だけは続けよう”という意志が継がれています。

 

コロナ禍、父の急逝——孤独な中での継承

現社長がこの工場を継いだのは、まさにコロナ禍の真っただ中。父の急逝を受け、突然経営と製造を一人で背負うことに。営業先の飲食店が閉まり、売上は激減。それでも「味は絶対に変えたくない」と、製法を守り続けました。製造も営業も一人でこなしながら、日々酢づくりと向き合っています。

 

「うちの酢は、本当においしいから」——照れながらも語る誇り

「正直、話すのは得意じゃない」と語る現社長。しかし、その笑顔には誇りがにじみます。「うちの酢は本当においしい。だから、一度味わってほしいんです」と話す姿には、職人としての芯の強さが感じられます。味は少しずつ県外にも届き始めていますが、やはり一番の願いは、「地元・宮崎の人に使ってもらうこと」だといいます。

 

石川工業の酢には、家族の歴史と、変わらない信念が詰まっています。華やかではなくても、毎日コツコツと守られてきた味。そのやさしく、まろやかな酢を、ぜひ一度ご家庭の料理に加えてみてください。ふと心が和らぐ、そんな味わいがきっと広がります。