
「20年間、パンのことばかり考えてます」——アシェンテ・佐藤さんが追い求める、パンと暮らしの距離感
宮崎市大橋にある「アシェンテ」は、パン職人ではなかった佐藤さんが、一から修業を積んで立ち上げたベーカリー。東京のコーヒーメーカー勤務からUターンし、実家のスーパーの一角でパン屋を始めたのがきっかけでした。
毎年フランスに通いながら学び続けるパンへの探究心と、「食べることの楽しさ」を伝えたいという思いが詰まった、気取らないけれど奥深いパンを焼いています。
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はじまりは、「素人が好きで焼いていた」パン
佐藤さんはもともとパン職人ではなく、東京でコーヒーメーカーに勤めていた会社員。パンは趣味で焼いていただけだったといいます。転機が訪れたのは、実家のスーパーの一角にパン屋を開く話が持ち上がったとき。「戻ってこないか?」という父の一言に背中を押され、宮崎に帰ることを決意しました。
焼けなかった自分が、毎年フランスへ通うようになるまで
「ほんとに最初は全然できなかったんです。パートさんの方がよっぽどうまかった」と、当時を振り返る佐藤さん。それでも、東京の師匠のもとで一からパン作りを学び、「もっと知りたい」との思いから、毎年フランスを訪れるように。地方の小さな町のパン屋まで足を運び、現地の人々の生活に溶け込んだ“パンのある暮らし”を体感し続けています。
小麦粉20種類以上、自家製酵母。パンづくりは毎日が実験
「アシェンテ」では、小麦粉は20種類以上を使い分け、自家製酵母も仕込み、素材からこだわったパンづくりを行っています。「バゲットが一番手ごわいですね。昨日と今日で、ぜんぜん言うことが違うんです」と笑いながらも、その真剣な目には職人としての覚悟がにじみます。
食卓になじむパン、そして“食べる楽しさ”を伝えたい
アシェンテのパンは、どこか素朴で、毎日の食卓に自然になじむ存在。惣菜と一緒に食べられる食事パンや、焼き立てのクロワッサン、あんぱんなど、ラインナップは親しみやすく、それでいて確かな技術と愛情が感じられます。そして今、佐藤さんが思い描くもうひとつの夢は、子どもたちに“食べることの楽しさ”を伝えること。パンを通じて、食の豊かさを未来につなごうとしています。
20年間、パンのことばかり考えてきたという佐藤さんの言葉には、情熱と誠実さが詰まっています。生活の中にそっと寄り添うパン、けれどその背景には、積み重ねられた研鑽と想いがあります。アシェンテのパンを手に取るとき、きっとその温度まで感じられるはずです。