人と町を、一本のサイダーでつなぐ人 ——— 「つくること」と「続けること」 門司港サイダー、堀井さんの挑戦 ———
「つくること」は、地域と人に向き合うことだった
一見すると、とてもシンプルな一本のサイダーです。
けれど、その背景には、想像以上に長い時間と、数えきれない対話の積み重ねがあります。
このサイダーを手がけたのは、堀井さん。
もともとウェブ制作を生業としてきた堀井さんは、「つくる」「売る」という行為を、画面の中だけで完結させることに、次第に違和感を覚えるようになったといいます。
ホームページは、あくまでビジネスの一部であり、宣伝手段のひとつ。
本当にお客様に寄り添った提案をするためには、自分自身が実際に何かをつくり、売り、手に取ってもらう経験が必要だ――そう感じた堀井さんの思いが、形になったのがこのサイダーでした。

サイダーづくりは、決して平坦な道ではありませんでした。
「どこで、誰と、どんなものをつくるのか」。
試行錯誤を重ねた末、堀井さんがたどり着いたのは、昔ながらの製法を大切にし、余計なフレーバーを加えない、どこまでも素直な味わいでした。
流行を追うのではなく、土地にすっと馴染むものを選ぶ。
その判断には、堀井さん自身の価値観が色濃く表れています。
完成したサイダーは、観光地のカフェや雑貨店、ホテル、ブライダルのギフトなど、少しずつ人の手に渡っていきました。
決して派手な展開ではありません。それでも堀井さんは、一本一本に、つくり手や飲み手それぞれの物語が重なっていく感覚があると話します。

「サイダーは、目的ではなく“きっかけ”なんです」
堀井さんが見据えているのは、商品そのもの以上に、その先にある風景です。
地域を盛り上げたい。雇用を生みたい。働くことを、前向きに感じられる場所を増やしたい。
その大きな思いに比べれば、サイダーはあくまで入口に過ぎません。
だからこそ、味もデザインも背伸びはしない。
わかりやすく、誠実であることを、堀井さんは何より大切にしています。
現在運営しているカフェでも、その姿勢は変わりません。
ベビーカー連れの家族、一人で静かに過ごしたい人、通りがかりにふらりと立ち寄る観光客。
誰にとっても無理のない場所であるよう、席の配置や空間の使い方にも、堀井さんの細やかな配慮が行き届いています。

「特別なことはしていない」と堀井さんは言います。
けれど、その“当たり前”を丁寧に続けることこそが、この場所の空気をつくっているように感じられます。
このサイダーを一言で表すなら――
堀井さんは「人生が集まった一本」だと表現します。
飲む人それぞれに背景があり、思い出があり、その瞬間があります。
堀井さんが手がけるサイダーは、そんな一人ひとりの時間にそっと寄り添いながら、静かに、けれど確かに、人と人、地域と未来をつなぎ続けています。